ライフ

歴史学者・山内昌之が選ぶ「戦争を考える本」5冊

 中国や北朝鮮の挑発をかわし平和を揺るぎなくするためには何が必要なのか。歴史学者・山内昌之氏が5冊を選んだ。

 * * *
 戦争は起こしてはならないものだ。しかし、戦争は平和と不可分の歴史的事象である。中国や北朝鮮の挑発をかわし、平和を揺るぎなくするには、戦争の愚行を原因と本質に遡って多面的に理解する必要がある。

 戦争は理論だけでなく、具体的な事実として歴史に依拠して考える必要がある。このためには、歴史書を読むだけでなく、戦史や戦況に基づくルポ文学によって戦争理解の前提と知識を豊かにして、心構えを堅固にする必要がある。

 こうした点に鑑みて、残念ながら今回は司馬遼太郎『坂の上の雲』や大岡昇平『俘虜記』のような小説はあえて割愛した。大岡であれば『レイテ戦記』を取り上げたいところだが、微細に戦況や指揮の在り方を描いたこの作品は別の機会に詳しく紹介したい。

 戦争を指揮した将軍の回顧録や伝記は入れなかった。事実と違う自慢話が多く、反省を欠いた作品も多いからだ。このためにアラビアのロレンスの『知恵の七柱』も除いた。『平家物語』や『太平記』など日本の古典は、別に本格的に扱われるべきであろう。

【原則として書籍データ中の年は原著や初版の刊行、発表、執筆、成立などの年。版元は主要なもの】

「戦争とは、政治の延長である」
『戦争論』/クラウゼヴィッツ著/1832年~1834年/岩波文庫・上中下/篠田英雄訳

 戦争とは何かを省察した著作。戦争とは、別の手段をもってする政治の延長だというのだ。日本でも森鴎外が紹介して以来、知られるようになる。ただし、本場のドイツの将軍たちには難解で実戦に役立たない学者先生の仕事だと評判が悪かった。むしろ最大の理解者は政治家から現れた。誰あろうドイツ統一の指導者ビスマルクである。

「毒を帯びた予言の書」
『最終戦争論』/石原莞爾著/1940年・中公文庫

 著者は、満州事変の首謀者にして帝国陸軍きっての戦略家だった軍人。戦史研究と日蓮信仰との混淆から生まれた特異な戦争論。日米の最終決戦によって戦争が地球から姿を消して永久平和の時代が訪れるという予言の書でもある。原爆や人工衛星の誕生も予見していた。毒を帯びた書物とはいえ、現代人が読んでも面白い。

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン