調教の段階から陣営として肝に銘じることですが、難しい馬もいます。先の秋華賞を走ったカイザーバルは返し馬の様子が少し怪しかった。引っかかりを心配したものの、四位騎手がうまく落ち着かせてくれて、8番人気ながら3着に入りました。

 馬券を買う側ならば、返し馬の特徴を観察するといいかもしれません。返し馬の様子とレース結果を記録(記憶?)しておく。すると、返し馬の情報価値がぐんと上がるのではないでしょうか。

 さて、馬は不安を抱えながらゲートインし、スタートを切ってゴール板を駆け抜けます。レース後、特に勝った馬はどこかゆったりとして誇らしげに見えます。レース後の馬の心臓は激しく波打って苦しい状態ですが、少なくとも不安は消えているはずです。

 それはおそらく、馬は人間側の気持ちを酌んでいるから。厩務員が一番緊張するのが、返し馬に馬を離す瞬間です。もちろんジョッキーも慎重になります。人間の興奮と不安が馬に伝播するのではないでしょうか。

 首を優しく叩かれるなどの祝福にも応えているのかもしれませんが、人間たちがホッとしていることが大きいように思います。馬には人間の感情が伝わるのです。

●すみい・かつひこ:1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、トールポピー、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2017年1月27日号

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