野菜の種には、「固定種・在来種」と「F1種」がある。固定種・在来種は農家が野菜の種を採り、その種を蒔いて育てて、また種を採る。この作業を繰り返して得られた種で、固定した形質が親から子へと受け継がれていくのが特徴。だが、これは残念ながら今、市場に出回る量は極めて少なく、絶滅危惧種が多いという。なぜなら、不揃い、不安定、生産性が低い、非効率的な野菜だからだ。
一方、F1種は、大量生産、安定供給、大量輸送などを可能にするために人為的に改良した種で、現在、市場に出回っている野菜は、ほとんどがF1種だ。
なぜ古来種野菜が、おいしいのか。それは日本人が心のよりどころともしてきた仏教の言葉「身土不二(しんどふじ)」ともかかわりがありそうだ。つまり、人間の身体と土地は切り離せない関係にあるということであり、その土地でその季節に採れたものを食べるのが健康によいという考え方だ。
旬の野菜や採れたての新鮮な野菜がおいしいことは、改めていうまでもないが、固定種・在来種を守ろうと活動する八百屋・warmerwarmerの高橋一也さんによると、東京や大阪などの大都会にも、これらの野菜は存在している。例えば、東京には、江戸東京伝統野菜といわれる野菜があり、冬場には練馬大根、拝島ねぎ、千住一本ねぎ、滝野川ごぼうなどがある。一方、大阪には、田辺大根、天王寺蕪、金時人参などがあり、全国どこでもちょっと郊外に足を伸ばせば、地域の農産物直売所や、主要道路沿いの道の駅などで手に入る。
高橋さんが定期的に開催するマーケット「種市」は、子供たちにも大人気だ。ずらずらと並ぶ見慣れない野菜に興味津々。それをその場で蒸かしたり、焼いたりして試食してもらうと、まさにバリバリと食らいつく。調味料もドレッシングも何もなしで。それを見ている母親たちは、「なんで? 野菜嫌いのうちの子が」と驚いたり、感動したり。
「子供の舌って正直なんです。野菜本来の持つおいしさをはっきりと感じるんだと思います。それを見ているぼくは、子供って感性を失っていないんだな、と思います。だからこそ、おいしい古来種野菜をたくさん食べてほしいんです」(高橋さん・以下「」内同)
食べる人がたくさんいれば、生産者も増える可能性が開け、細々とでも未来につながって、地域の宝は守られていく。こうしたおいしい野菜に出合うためには、漫然と献立を考えたり、野菜売り場を見ていてはだめ、と高橋さん。
「野菜とお見合いしてください、とよく言うのですが、野菜を前にしたとき、自分に今、必要なものは絶対に勘が働きわかると思うんです。ピンとくる野菜がなかったら、また別の店を探す。そこで気になるものがみつかったら、じっくり見て選んでほしい。食べるということは、本来はもっとも動物的なこと。自分の体が欲するものを知り、そしてその野菜が育った土と育てた農家さんに思いを馳せてもらえたら嬉しいですね」
仕事や家事育児に追われる主婦が、野菜をじっくり選んでいられない事情も、高橋さんは承知している。だから、「いつかお総菜の店も手がけたい」と夢を語る。もちろん、古来種野菜をたっぷり使ったお総菜だ。
※女性セブン2017年2月9日号