“黒田バズーカ”による物価安定2%の目標については、「ファンンダメンタルズ(経済の基礎的条件)がしっかり回復してきている」と右手で階段を上るような仕草を見せた。総裁自身、日本経済に明るい見通しを持っているということだ。
…と思ったのだが、「しっかりした成長が続くというのが市場の見方だ」と発言しながら身体を左右、横に揺らした。上昇傾向にあるけれど成長が続くかどうか、先のことなど予測不可能というのが本心なのだろうか? ここにきてなんとも迫力不足で心もとない。
トランプ新政権で混乱が続く米国の余波を受け、日本でも連日、円や株式市場が乱高下している。こういう時こそ“黒田バズーカ”ではないが、何か手はないのかと思ってしまうが、黒田総裁は淡々としたものだ。
日米の金利格差について聞かれた時は、ジャケットの前を両手で合わせるような仕草を見せ、「様々な要因がある」「為替政策は財務省が所管だ」と答えた。ジャケットの前をしめるような仕草から、日銀トップである自らの考えをここで話すつもりはないのだろう。
しかし、質問していた記者たちも、為替や金利について聞きたかったに違いない。質問の仕方を変えて、あの手この手で聞いてくるが、黒田総裁のガードは堅い。
突っ込んで聞いても、通貨は別次元の政策で「特に申し上げることはない」と机の上に肘を乗せ、腕を胸の前に置いてしまった。日銀トップとして為替政策について明確に物を言うのは危険と、無意識のうちに、肘と腕で自らをガードしたのだ。
しかし「自分の経験から…」と話し始めると、腕を開いて手を下ろした。個人的な経験談となると話は別なのだろう。ガードしていた腕はするりと机から下ろされた。
為替操作の認定について質問を受けた時は、思わず本音が出たようだ。「アメリカだけがやっている」と笑い、「アメリカの都合でやっている」と鼻をつまんだのだ。日本はこの数年、為替操作の円売り介入を行っていない。
鼻をつまむ、鼻柱をつまむという仕草は、矛盾する問題を考えている時に出やすいと、動物行動学者のデズモンド・モリスは言っている。鼻柱の下にある鼻腔がストレスに対して反応して、一時的に軽い痛みを起こすため、痛みを緩和させようと鼻柱をつまむのだそうだ。
アメリカ経済がさらに強く、日米間の金利差が広がれば、ドル高・円安になってくるのは仕方がない。アメリカというより、トランプ新政権の都合だけで根拠のない批判、と言いたかったのだろう。
とはいえ「2017年は着実に物価上昇率が上がり、2018年頃には2%に達する見通し」と述べながらも、どこかで矛盾を感じているのか、鼻をつまんだ黒田総裁。10日に行われる日米首脳会談でトランプ大統領は、再び“トランプ砲”を放つのだろうか? “トランプ砲”vs“黒田バズーカ”の行方に注目したい。