2012年に、スカイツリーのオープンセレモニーで使われたはさみは、地元、東京都墨田区にある「石宏製作所」の石田明雄さんが作ったものだ。
切りたいものに触った時にはすでに切れているような、精巧なはさみ作りで注目を集める石田さんは、医療用はさみを作っていた父親に22才で弟子入り。“わっぱ”といわれる持ち手部分を、ひたすら削る修業から始めて、職人への道を歩んできた。
そんな石田さんが29才の時、師である父が63才の若さで突然倒れ、この世を去る。
「当時は、まだ父から充分に技術を教わっていませんでしたが、納期は迫ってくる。それで、父の作業を思い出して、何とか仕上げるのですが、問屋さんからは“使い物にならない”と返品される。そんなことを繰り返しながら、それでも父の遺志を継ごうと、作り続けてきたんです」(石田さん、以下「」内同)
ある日、そんな石田さんを見かねた同業者から、「ウチに習いに来いよ」と声をかけられた。未修得だった部分を教わり、売り物になるはさみが作れるようになり、その後も、さらに創意工夫を重ねる中、気づけば返品数も減少。
今ではその磨かれた技術は、高評価を得ている。今回紹介している「職人が大切な人に贈ったはさみ」は、石田さんが妻のために作ったものだ。
はさみの刃を内側に向くようにひねりを加えた後、峰になる部分を叩き、刃にためを作る。「はさみの刃は1点で交わって切れるように調整します。熱処理をする前のこの作業が、はさみの調子を決めるんです」と石田さん言う。この後、熱処理を加え、何度も研いで調整を加え、仕上げていく。
「家族で食事に出かけて、七面鳥料理を食べようとした時、筋がうまく切れなかったんです。その時に妻が、はさみを出して筋を切ったんです。それで、携帯できて、肉などの食べ物もサッと切れる、衛生面にも考慮したはさみが作れたらと思って」
全体に丸みのある優しいフォルムは、ワンタッチで分解できて、洗浄しやすくなっている。また、刃先を丸くしたことで、ポーチなどに入れても傷つく心配がない、と女性の愛用者も多い。
※女性セブン2017年2月23日号