編集部には、普段はあまり縁のない高齢の女性読者から、死後離婚について「本当にできるのか?」「もっと具体的に知りたい」との問い合わせが相次いだ。そうした声に耳を傾けると、女性たちの執念や怨念、そして強欲さまで浮かび上がってくる。最も多かった問い合わせがこれだ。
「死後離婚の届けを出したら、義理の両親にバレてしまうのではないか?」
都内在住の堺雅子さん(仮名・62)はこう言う。
「義父母は『嫁は夫の家に生涯尽くすべし』という昔ながらの考えに凝り固まった人たちなので、死後離婚の届けを出したことが知られたら、『嫁の分際で』と絶対に罵られる。しかし、夫が死んでまであの人たちの因習に縛られるのはまっぴらご免です。徐々に連絡を絶っていく間に、バレずに死後離婚したい」
家族問題に詳しい弁護士の加藤泰氏によれば、死後離婚は相手(姻族)に一切知られることなくできるのだという。
「姻族関係の終了は自分の戸籍にしか記録されません。相続問題などで戸籍を確認されない限り、気付かれることはないでしょう」
夫側の両親にとっては、息子の死後、「最近、嫁から連絡がないなぁ」と思っていたら、知らぬ間に縁ごと断ち切られていたということになる。しかし、発覚した時にトラブルになる可能性が高いのも事実。千葉県在住の北島初枝さん(仮名・51)がため息をつく。
「同居の義母とは表向きは仲良くやってきたつもりですが、私の側は言われてきた細かい文句の一つ一つまですべて覚えています。夫が昨年がんで亡くなった後、このままこの人の面倒を見て人生を無駄にするなんて絶対に嫌だという思いが止められなくなり、意を決して義母に死後離婚したいと打ち明けました。すると“あんたは鬼か”と泣きながら罵られ、これまでの関係が崩れました。同居する私に感謝していたはずの夫の兄夫婦も、『あなたはおかしい』と責めてきた。どうすれば離れられるでしょうか」
彼女の悩みに対し、法的な答えは明白だ。
「義母の介護問題をクリアにしてからのほうが遺恨を残さないとは思いますが、姻族関係終了届の提出は妻の一存で決めることができ、反対する権利は誰にもありません。介護を放棄したという訴えを起こされても、その義務がなくなっている以上、元妻が責任を問われることはありません」(前出・中村氏)
※週刊ポスト2017年3月3日号