近年では『剣客商売』など、大ベテラン・井上昭監督の作品で名演技を見せている。
「少しずつでいいから、井上昭監督がOKしてくれるような芝居を、表現者としてできたらいいなと思っています。監督の洞察力というか美学は、繊細で奥深いから、俗っぽい生き方をしてる人間では対応ができない。ちゃんと自分の生き方を貫いていないと、監督から心地よいOKがなかなかもらえない。見抜かれちゃう。『あの心が僕は好きだから』って言ってもらえるようじゃないとね。
そういう羅針盤のような、洞察力をもった演出家です。そういう存在は大事だし、一緒に仕事をして楽しいし、だからこそ怖いんです。
十年おきくらいに素晴らしい演出家に巡り合えてきました。蜷川幸雄さん、岡本喜八さん、工藤栄一さん、そして井上昭さん。共通するのは、役者に対して線を引かないこと。深い優しさがあって、共犯者的に関わってくれる。だから、俺も『この人が喜ぶ芝居を目一杯やりたい』と思えるんです」
ベテランとなっても、危機感を忘れた日はないという。
「『俺もここまで来たか』なんて慢心した瞬間にダメになる仕事です。常に『今年も一年もった』、そう思っています。今の俺を見てオファーをくれたら、それにちゃんと応える。大事なのは、『今、何が出来るか!』です。それが職人俳優ですから」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年3月3日号