一般には、保守派の政治家である安倍首相が、誰よりも今上天皇に対して崇敬の念をもち、したがって天皇の「ご意向」を実現してさしあげようと強く念じていると思いがちである。
しかし、立憲政治家としての安倍首相およびアドバイザーを含めた官邸は、天皇陛下が本来あるはずのない「ご意向」によって、事実上の法制度改変を要求するという事態は受け入れられないものだった。事実、かつてある宮内庁長官が「ご意向」を独断で公表した際には辞任に追い込まれ、今回も風岡典之長官は事実上更迭されている。
したがって、宮内庁のなかで今上天皇の「ご意向」発表を画策していることを知ったとき、なんとか阻止しなくてはならないと思ったはずである。そして、それができるのは内閣総理大臣の助言か宮内庁への指揮監督以外にはなかった。
しかし、安倍首相はそれに失敗した。この段階で事態が皇室典範、場合によれば憲法の改正にまで発展する危険のあることは気が付いていただろう。NHKテレビが「ご意向」が発表されると報道した直後、世論調査が80%を超える支持を得たと報じるなか、記者団にそっけなく答える安倍首相の憂鬱な表情を思い出していただきたい。