超低空から高度約7600mの高空までを時には音速で駆ける戦闘機。徳永克彦氏(60)は、その後席に乗り込んで撮影する世界屈指の戦闘機カメラマンだ。この危険な仕事に挑むフリーランスは世界でも数人しかいない。
徳永氏は21歳で戦闘機に初搭乗して以来、欧米やアジアなど34か国の空海軍で60機種以上の戦闘機を撮影し、2月28日には写真集『蒼空の視覚 Super Blue3』(廣済堂出版)が発売されたばかりだ。1年の約300日は海外滞在だ。
「先日、スウェーデンのメーカーがインド空軍へ戦闘機を売り込むためのキャンペーン用の撮影をしてきました。この仕事は事前の計画が最も重要で撮影の成功を左右します。インド国防省との飛行エリアの調整などを経て、パイロットと機動の打ち合わせをし、緻密な撮影プログラムを作る。ここまでが仕事の9割といっても過言ではありません。
1機を飛ばす燃料費だけでも200万円。私が搭乗する撮影機を含めれば1000万円以上の費用がかかるのでミスは許されませんから」(徳永氏)
機内では常に高いG(重力加速度)が搭乗者にのしかかる。縦のGがかかると血圧が低下し、視界が狭まるばかりか、最悪の場合は意識を失う。
「低酸素状況下での訓練と経験による慣れで、ある程度は解消できています。マイナスGがかかるフライトでは物が浮き上がり事故につながりかねないので、カメラは1台しか持ち込みません。安全を第一に考えている、という姿勢で搭乗し、パイロットを安心させるのも大切な仕事のひとつです」(徳永氏)
パイロットたちが日常訓練で腕を磨いているのは実戦のための技術で、撮影用の“演出飛行”ではない。編隊飛行も過去の戦術となり、昨今の空軍はほとんど行なわないという。誇り高きパイロットたちが慣れない演出飛行に協力するのは、経験豊富な徳永氏への信頼があってこそ。
「撮影時間は40~45分しかない。フィルム時代はフィルム交換の時間が惜しく1カットに懸けていたので、デジタルカメラを使う今も一切連写はしません。パイロットが苦労して実現させた、狙った構図がやってきたその一瞬を切り撮っています。それが私の仕事に対する流儀。異なる国で異なるパイロットたちとアイデアを出し合い、一緒に空を飛ぶ共同作業はユニークな体験です。そこがこの仕事の面白さだと感じています」(徳永氏)
取材・文■小野雅彦 撮影■徳永克彦(写真集『蒼空の視覚 Super Blue3』より)
※週刊ポスト2017年3月10日号