松方は主演スターとして、数多くの悪役とも共演してきた。対談の際には、そうした役者たちの魅力もうかがった。
「金子信雄さんは引き出しの多い方でしたね。いつも全力でいろいろと研究してくる人で。同じ脇役でも、小松方正さんとかは芝居の手を抜いてくるんですが、金子さんはそういうことはなかった。テストでこちらが笑ってしまうくらいですから、とんでもなく達者な俳優さんです。文ちゃん(菅原文太)も、みんな笑っちゃうんです。そういう様子を見ながら、金子さんはニコニコしていました。
時代劇映画の良かった頃は悪役も凄く層が厚かったですよね。迫力があったのは山形勲さんと進藤のおっさん(英太郎)。顔がとんでもなく大きくて、押し出しが凄かった。
しかも、仇役も一本の映画に一人じゃないんですよ。小悪党で加賀邦男さんに吉田義夫さん、阿部九州男さん。少し上に三島雅夫さんに近衛十四郎。それで最後のワルは月形龍之介。主人公はそれだけの憎たらしい悪をやっつけていくわけですから、それは爽快感が凄くなります」
松方は大御所スターでありながら、いつも先輩を敬う「可愛い後輩」の顔を覗かせていた。
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年3月10日号