コラム

海外投資家が注目するトランプ超大型減税の着地点とは?

減税幅の縮小を余儀なくされるか(トランプ氏Facebookより)

 ドナルド・トランプ氏の米大統領選就任後、米国の株式市場は連日のように過去最高値を更新したが、投資家たちはトランプ氏のどんな政策に注目しているのか。海外金融機関の動向について詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。

 * * *
 2月の上旬に、全世界の主要な外国人投資家(合計55)にヒアリングをおこなったところ、8割以上の投資家が、「株式市場には大きな影響はなく、投資スタンスを変えることはない」と回答している。反応しているのは短期投資主体のヘッジファンドの一部だけ、という結果となった。

 では、外国人投資家が何に注目しているのかというと、トランプ政権の経済政策の目玉である税制改革の行方だ。具体的には、減税の規模とその内容である。

 現状では、法人税や個人所得税の減税、相続税の撤廃といったメニューが並んでいるが、注目されるのはその規模である。大統領自身が「驚くべき税制改革」と語るように、最大5.9兆ドルに上るとされている。減税は2018年から10年間にわたって実施される予定だが、それでも年間5900億ドル(日本円で約67兆円。1ドル=114円で算出)という途方もないものだ。米国の過去に実施された、大型減税と呼ばれたものと比較しても抜きん出ている超大型となっている。

◆共和党の財政タカ派がトランプ案を拒否

 しかし、外国人投資家は、トランプ減税がそのまま実現されるとは考えていない。例えば、米国企業の収益を大きく押し上げ、海外に逃避したグローバル企業の米国回帰の切り札になると期待されている、現行35%の法人税の15%への引き下げについても、共和党の財政政策における“タカ派”の反対で修正が余儀なくされるとみている。15%への大幅引き下げは、財政赤字の膨張につながるとして、すでに、米議会の下院議長を務める共和党の最大実力者の一人であるポール・ライアンから修正案が出されている。

 伝統的に「小さな政府」を志向する共和党は、すでに、2016年に総額2兆ドルのおよぶ減税案を党としてまとめている。その中には、法人税の20%への引き下げ案も盛り込まれている。したがって、トランプ減税は、共和党の減税案にどのくらい減税額を上積みできるかという部分がかなりある。

 そして、現在、トランプ政権の経済政策の司令塔である米国家経済会議委員長に就任予定のゲーリー・コーン(元ゴールドマン・サックス社長兼最高執行責任者)が、共和党の財政タカ派議員と減税幅を巡って交渉している模様だが、交渉は難航しており、共和党の減税幅2兆ドルを突き崩すのは最終的に困難と予想されている。

◆共和党との妥協は政権正常化のサイン

 そうなると、トランプ減税は減税幅の縮小を余儀なくされることになるが、外国人投資家はこの着地点を注目している。トランプ大統領があくまで減税幅にこだわり、共和党との交渉を続けていくと、輸入関税を引き上げるとか、メキシコとの国境沿いに壁を作る財源としてブチ上げた「国境調整税」のような新しい税金の創設を持ち出す可能性があるという。それを財源とし、減税規模を維持する考えだ。

 これは、株式市場にとって悪いシナリオだとみている。トランプ案の5.9兆ドルという減税規模は大きすぎ、実施されると米国経済にはインフレ圧力がかかるため、金利が大幅に上昇する可能性が高まってしまう。また、関税の引き上げや国境調整税は、米国内の輸入企業にも打撃があり、減税効果を減殺しかねないと考えている。

 では、良いシナリオとは何か? それは、議会や共和党と妥協し、共和党の減税案を受け入れることだという。そもそも2兆ドルという規模は、インフレ圧力を強めることなく、米国経済の拡大基調を持続させるにはリーズナブルな水準とみている。さらに、重要なのは、議会や共和党と妥協することで、トランプ政権に議会および共和党のコントロールが効くということが証明されることだ。議会や共和党のチェック&バランスが機能し、トランプ政権が“正常化”することを多くの投資家が期待しているのである。

 こうした背景から、外国人投資家は、この3月はトランプ減税の先行きが怪しくなり、期待感がはげることから、米国株は短期筋のヘッジファンドの売りなどを浴び、調整すると想定している。そして、前述したように、あくまで減税規模に固執し、議会や共和党との対決姿勢を崩さなければ、調整は長引くと考えている。妥協が図られれば、そこが相場の転換点となるだろう。

マネーポスト2017年春号

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