◆あなたにも見えたの?
奥野氏がそう感じるのは、真に迫る体験談を数多く聞いてきたからだ。宮城県気仙沼市に住む三浦幸治さん(50)は、3月11日以降、父親が行方不明になっていた。3月28日の父親の誕生日を迎え、日付が変わった深夜2時過ぎ、玄関をドンドンと叩く音がした。しかし、ドアを開けても誰もおらず、逃げる足音もない。10分もしないうちにまたドンドンと叩く音がした。
〈そのとき、『あ、おやじだ!』と、すぐピンときました。(中略)私だけじゃなくて女房も、『来たわね、じいちゃんかな』と言ったのを覚えています〉
翌朝、行方不明だった父親の遺体が発見されたという連絡があった。三浦さんが明かしたように、亡くなった人が“別れ”を知らせにやってきたというエピソードも少なくない。
宮城県の南三陸町で被災した千葉みよ子さん(69)は、まだ3歳だった孫娘・ゆうちゃんが津波で流された。ゆうちゃんの遺体を見つけることはできていない。震災以降、千葉さんとゆうちゃんの母親である三女・菜緒さんは、同じ時間に同じ夢を見るという。夢には必ず、ゆうちゃんが出てくる。ある日、孫娘が「じゃがりこが食べたい」と話す夢を見たので娘に電話をすると、「あら、私と一緒だ」と返されたという。
〈この前も夢でホットケーキが食べたいと言うので作ったら、娘も同じ夢を見たそうで、電話で『作りすぎて困ったわ』と笑っていました〉