「4年ほど前に1度、友達に誘われて姜尚中さんの講義に行きました。『あのインテリのイケメンを見に行こう』ってミーハー心で(笑い)。イケメンぶりはもちろん、話もすごく面白くて、いちばん前でかぶりつきでした。姜尚中さんの講義が素晴らしかったことはもちろんですが、40代過ぎてから大学のキャンパスにいるという状況に高揚していた自分もいて、すぐに他の講義も受けてみたいな、と思ったんです。けれど両方の親の介護もあるし、夫は興味がないから、私ばかり家をあけるのもちょっと遠慮してしまう。周りの友達とも『いつかまた行けたらいいね』って言い合ってますが、なかなかねぇ…」
一方、60才が近づくと、仕事や子育てがひと段落し、リタイア後の生活が見えてくる。そんなとき、「ふと先の人生を考えるようになった」と話すのは、昨年から明治大学(東京・千代田区)の公開講座に通い始めた福田佳子さん(55才・仮名)だ。
「自分の会社員人生があと数年になっていることに気づいたとき、愕然としましたね。私くらいの年代の女性で働き続けている人は、会社でもそれなりの立場になっているのですが、だからこそそれなりの矜持もあるわけですよ。でも、一歩会社の外に出てしまうと、私のような女性退職者は、正直厄介だと思うんです。まだまだ気持ちも体力もありますが、突き詰めて考えていくと、私にできることって、スーパーのレジ打ちくらいかもしれないって思って…」
そんな時、知人に勧められて参加したのが公開講座だった。
「試しに行ってみたら、思いのほか楽しかったんですよ。江戸時代、夫が自分を捨てて新しい女のもとに走ったら、新しい女の家を元妻が台所用品を片手に打ちこわしに行く、“後妻(うわなり)打ち”という風習があったとか、非日常の面白い話を学生時代のように、熱心に聞いてノートをとっていたら、心のモヤモヤが少し解消されたような気がしました」(福田さん)
さらに年を重ねると、より深く学ぶということと対峙するようになる。
奈良大学(奈良・奈良市)で仏教の公開講座を受ける武藤さち子さん(81才・仮名)は、「夫にDVを受けた私を癒してくれたのは、仏像の勉強だった」と打ち明ける。