意外な購入者もいらっしゃった。東京都東久留米市の小口君江さん(83才)だ。昨年の10月に夫が亡くなってこのお墓を求め、百箇日法要の後に納骨したのだが、実はもとよりお墓を持っていないわけではなかった。十数年前に埼玉県入間市の、いわゆる郊外霊園に自分たち用のお墓をすでに夫婦で購入済みだったのだ。
長女の竹中和美さん(55才)がこう話す。
「結局、入間の霊園のお墓は、まったく使わないまま返還しました。買った頃、まだ60代だった両親は、郊外のお墓がいいと思ったんでしょうが、父が病に倒れた頃から、母は遠くて行けないと思うようになったようです。娘の私は練馬住まいだし、入間まで来てくれないだろうと、気が変わったんです」
母娘2人でここに見学に来て、即決したのは、母・君江さんが「もともと文京区の出身なので土地勘もあるし、『こんにゃくえんま』は昔から有名だし」と手放しで気に入ったからだそうだ。
余談だが、こんにゃくえんまの愛称は、宝暦の頃(1751~1764年)の逸話による。目を悪くした老婆が閻魔大王に21日間祈願した。閻魔大王が「満願の暁には私の目をあげよう」と言った夢のお告げどおりに老婆の目は治り、引き換えに閻魔大王が盲目となった。老婆は感謝の印として、好物の「こんにゃく」を供え続けた。戦前は巣鴨のとげぬき地蔵(高岩寺)と並ぶ賑わいだったという。
君江さんは、すでに買っていた霊園のお墓に未練はなかったのだろうか。
「ええ。母は『私もマンション住まいだもの、やっぱり“マンションのお墓”の方がいいわ』ときっぱり言いました」(竹中さん)
このお墓は、一人っ子の竹中さんが承継することになる。しかし、竹中さんの夫は長男。竹中家のお墓がある。両親1代だけのお墓になりそうだと言う。先般聞き及んだ近頃のお墓の傾向「都心のマンション化」「核家族化」そのものだ。
※女性セブン2017年4月30日号