それだけに、改革派に対する反対派からの抵抗、攻撃は激烈を極めた。個人的なスキャンダルを探られ、社内であからさまに無視され、あるいは監視され、リーダーの自宅に脅迫電話、嫌がらせの無言電話が頻繁にかかり、自宅周辺にマッチの燃えかすやパチンコ玉が大量にばらまかれ、組合の街宣車が大音量でがなり立てながら周回した。
もっとも、改革派も馴れ合う労使の不祥事をかき集めてマスコミにリークし、国労に対して冷酷なほど厳しい態度で臨み、分割・民営化に賛成していた運輸大臣橋本龍太郎ですら「君たちは怖いことをする」「国労が可哀想になる」と漏らしたという。そんな実態が詳細に描かれている。
著者も書くように、分割・民営化の表向きの目的は25兆円以上という巨額債務と万単位の余剰人員を整理して経営改善を図ることだったが、同時にその裏で、自民党政権が、国労とそれが中核をなす総評、さらには総評に支えられた社会党の弱体化を狙ったものだった。そして、実際にそのような結果をもたらした。
その意味で、単にひとつの公共事業体の解体ではなく、時代の大きな転換をもたらす〈戦後最大級の政治経済事件〉であり、昭和の最後に起こったことを考えると、まさに〈「昭和」の解体〉を象徴する事件だった。