豊洲運河に残る豊洲橋梁跡(T字ブロック)
越中島から豊洲を繋いだ深川線の痕跡は、豊洲の対岸の塩浜から辛うじて残存していた。鉄橋が取り外され橋梁だけになったT字型ブロックが二本、はるか豊洲の高級賃貸マンションを背に、豊洲運河の水面から突き出している(豊洲橋梁)。地元民ですら、この二個の古ぼけたコンクリートが何だったのか知る人は居まい。
マンション群を走り、迷いに迷うこと小一時間、ついに塩浜一丁目のマンションの間隙に、確かに高度成長の痕跡を見つけた。わずか100m足らずだが、深川線の廃線跡がいまも残されている。「都有地」としか書かれていないフェンスの向こうに、かつてこの国がたどった栄光の物証をしかと見つけた。
なぜ豊洲新市場の土壌が汚染されているのか。それは高度成長の負の遺産でもあり、また逆説的にはこの国がたどった栄光の証しでもある。時代に合わせて成長し、生まれ変わってきた豊洲に、小池は劇場政治を持ち込み移転にストップをかけ、戦犯探しとばかりに老人を法廷に引きずり出した。
既に完成してあとは開業を待つだけの豊洲新市場。小池による一連の劇場政治は、豊洲の絶え間ない創造と進化の歴史を否定するように、この街の躍動を押さえつけているように思える。
「風評被害で豊洲の不動産価格が暴落か─」。こんな無根拠な夕刊紙の煽り記事を見つけたので地元の不動産屋に実相を聞いた。
「豊洲は人気エリアなので汚染問題で不動産価格が下がっているという事実は一切ありません。第一、そんなことを気にしていたらこの東京に、どこにも住むところなんてないじゃありませんか」
【PROFILE】ふるやつねひら/1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『左翼も右翼もウソばかり』『草食系のための対米自立論』。最新刊は『「意識高い系」の研究』。
※SAPIO2017年5月号