京都を代表する寺である金閣寺(鹿苑寺)と銀閣寺(慈照寺)。この両寺で住職を務める「仏教界の大重鎮」が、臨済宗相国寺派(※仏教の宗派の1つ。1392年に臨済宗の禅僧・夢窓疎石が開き、禅宗文化を広めた)第7代管長の有馬賴底(らいてい)師(84)だ。有馬師がこのたび上梓したのが『人生は引き算で豊かになる』(文響社刊)だ。彼の言葉を聞いていると、心がふんわり軽くなる。有馬師に、人生を穏やかに過ごすにはどうしたらよいのかを聞いた。
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人生を穏やかに過ごすには、物事を引き算で考えることが大事です。引き算とは、「煩悩を捨てる」ということ。大切なのは「捨てる勇気」なのです。
〈有馬師は、ゆっくりとそう話し始めると、まず馬祖(※中国・唐代(618~907年)の間に活躍した僧侶。中国における仏教の一派である南宗禅の祖となった)の弟子であった「ホウ居士」(※ホウはまだれに龍)の例を挙げた。〉
ホウ居士は商売で成功し、お金や財宝をたくさん持つ大富豪でした。しかしある日、船で川を下る最中、「なぜ私はこのようなものに執着しているのか」と、持っている財宝をすべて捨ててしまった。すると、これまで心を覆っていた悩みが消え去り、晴れやかな心持ちになったと伝えられます。これこそが煩悩を捨てること。「何かをずっと持っている状態」は、色々な悩みを生む原因となります。得たものはすぐに捨て、常に心を空にしておくことで、新しいものが入ってくる。それが人生の引き算です。
執着心の対象は過去の栄光や財産など、様々です。それらを自ら打ち砕き、次に進む意識を持つことが大事です。
捨てるばかりでなく「何かを得よう」と努力することももちろん大切です。ただし、そこに「他人に認められたい」という執着があってはならない。向上心は大切ですが、それは自己の精神を高めるためであり、承認欲求を満足させるためではないのです。そういった目的を捨て“無心”になり学ぶことが大切です。