般若心経に「色即是空」「空即是色」という言葉があります。「色」は「認識」、「空」は「無」を指します。つまり、認識することは無であり、無であるからこそ学びが無限に広がっていくと説いている。固定観念を捨て去ることによって、いくらでも知識は広がっていくのです。
〈この考えは、老境になって誰もが迎える「別れ」にも応用できると有馬師はいう。定年退職による「仕事」との別れ、死別や熟年離婚による「伴侶・家族」との別れ──。これらもただの悲しい出来事ではなく、新たな発見や出会いの訪れと捉えられると説く。〉
禅語の中に、「心は万鏡に従って転ず、転ずるところ実に能く幽(よくかすか)なり」という言葉があります。“心が環境によって変わっていったなら、その方向へ転じなさい。そうすればうまくいく”ということです。職を失ったり、愛する人を失ったときだって、人の痛みがわかる心を得ているのかもしれない。すなわち、私たちにとって「得る」と「失う」は究極的に同じ行為。だからこそ別れを恐れてはならないのです。
※週刊ポスト2017年4月28日号