産経新聞社からはオピニオン誌「正論」が発行されているが、そのムック版が「別冊正論」である。昨年十一月刊行の「別冊正論28」は「霊性・霊界ガイド特集」だ。巻頭カラーページは、タレント壇蜜のインタビューで始まる。和菓子職人、エンバーミング(死に化粧)、霊界が描かれたマンガやアニメ、「セクシーな死に方」…。なんだかよく分からない。次いで仏教マンガがカラーを含んで三十ページ。これは仏教書専門の出版社から出ている宗教マンガの抜粋再録だが、どうやら昭和二十年代刊行のものらしい。キッチュ感が逆に新鮮であるけど。
科学の装いをまとったオカルトも登場する。産経本紙でもおなじみの遺伝子学者村上和雄は「心の働きによって遺伝子のスイッチがオン・オフになる」と言う。そんなことが可能ならすべての遺伝病は簡単に治るし、人種問題も一気に解決するだろう。「人は死なない」と主張する救急医矢作直樹も当然のように登場する。私は、死んでもいいから、この医者だけには診てもらいたくない。
この「別冊正論28」は、刊行半年の今も産経新聞に広告が出ている。売れ続けているからか、売れ残っているからか。
論語述而篇にこうある。「子は怪・力・乱・神を語らず」。孔子は、怪異、暴力、乱倫、神秘を語ることはなかった。古代の支那人の方が知的で健全であった。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2017年5月5・12日号