著者によれば、井手氏は当初、国鉄の分割には反対だった。そこで、運輸官僚が新幹線を運輸省の支配下に置くための特殊法人「新幹線保有機構」を構想すると、最強の収益源である首都圏の路線網を引き継ぐ東日本に経営資源を集中させてJRグループの一体性を保ち、自分がその経営にあたることを考えた。だが、首相レベルの人事で西日本行きが決まると、今度は西日本主導のもとで東海との合併を目指した、と見る。
松田氏に対しても、分割民営化後、東海が自前資金でリニア新幹線を開発することを井手氏と一緒になって阻止しようとし、新幹線品川駅構想にも反対した、と批判する。そして、あることを機に〈私は松田、井手両氏とは袂別〉した、と書く。
ここまで書くかと驚き、感心する箇所が多く、裏返せばそこに東海を成功に導いた強烈な自負を感じる。書かれていることは全て著者の立場からのものだが、国鉄と民営化後の歴史を知るために読むべき内容と価値を十分に備え、何より読み物として刺激的で面白い。
※SAPIO2017年6月号