「山登りが本当に好きだったので、高地気象を勉強しておけば、国のお金でヒマラヤに行けるんじゃないかと思った(笑い)。それに、山で雷に遭ったことがあってとても怖かったんですが、空を勉強しておけば役に立つかな、と」
28歳で帰国した石塚は、アメリカ時代の知り合いが経営する小さな輸入商社に入社する。が、会社は半年で倒産、石塚はこれを機に漫画に挑戦することを決意する。
「もう30歳手前になってましたから、やり残しはないようにと思ってました。日本の社会から出遅れていたし、30までに勝負したいと思って、漫画を描いて応募したんです。それまで自分が絵を描いているのを見た人は誰もいません。学生時代の友人からすれば“なんでお前が漫画家なの?”という感じだと思います」
石塚は、祖父が木彫りの彫刻師、母が美術教師という環境で育ったものの、事実、それまで漫画らしい漫画は描いたことがなかったのだ。が、石塚は宣言通り『This First Step』で小学館新人コミック大賞に入選。漫画家への道を歩み始める。そこで最初に取りかかったのが『岳』だった。
「僕は、アメリカから、2つのお土産を持ち帰ってきたんです。ひとつはクライミング。ひとつはジャズ。いつかその2つの好きなものを描けたらいいなと思っていました」