政治手法も対照的だ。中曽根氏は首相時代、「護憲派の闘士」として名を馳せていた土井たか子・社会党委員長と国会で正面から9条改正論争を戦わせた。
ベテラン政治記者の松田喬和・毎日新聞特別顧問は「中曽根さんは憲法改正には国民の声の高まりが欠かせないという信念を持っていたから、決して議論から逃げなかった。土井さんとの論戦は実に見応えがあった」と振り返る。後に土井氏も、「この総理大臣には哲学があるなという思いでそれまでの認識を変えた」と語っている。その原点は国民の声なき声に耳を凝らしたことだ。
〈私がいかに憲法は不合理であるから改正すべきだといっても、聞く耳などもちませんでした。GHQから与えられたものとはいえ、この自由と平和を手放すまいという頑なな欲求に、占領終結直後、治める側にいた私は気付かなかった。そういう国民の切実さに理解がおよばなかったのです。もう戦争はこりごりだという国民の思いに理解を持った人間でなければ、民衆の協力を得て、改憲など出来るわけがありません〉(『自省録』)
憲法改正発言の真意について国会で野党議員に質問されても、「読売新聞を熟読してほしい」と論議を拒否した安倍首相との姿勢の差が際立っている。
※週刊ポスト2017年6月2日号