京北町(現・京都市右京区)という小さな町で、あの時、一体何が起きたのか。不起訴処分は正しかったのか。1月下旬。京都駅から国道162号線を約一時間、北へ。細い片側一車線の多い山間道路をしばらく走り、高雄を越えると杉の里、中川、笠、3つのトンネルをくぐる。そして、4つ目の京北トンネルを抜けると、そこはいつかの文豪が描出したあの台詞が思い浮かぶ情景で、雪が山間と集落を銀色に染めていた。

 京北町は、1955年に1町5村の合併によって誕生。各々の村が当時の面影を残したままのような風情だった。2005年の市町村合併によって消滅した。北山杉の産地で、林業が栄えたといわれ、周りを見渡すと木材が山積みになった工場がそこかしこにある。トンビの鳴き声が時折、静寂を切り裂く。そんな集落に、ひっそりと佇む建物がある。京都市立京北病院だ。

 周囲を山で囲まれたこの地にあって、地元民は、同病院こそ、町全体の健康と幸福を約束する特別な場所だと感じている。そして、その医療の中心を担っていたのが、山中だった。理髪店を経営する40代男性は、「あの先生は、我々にしてみたら教祖様みたいな存在でしたから」と言って、山中の行方を知りたがっていた。また、50代女性は、18年間、院長を務めた彼を、こう懐かしむ。

「物腰が柔らこうて、慕われてたね。私の父もよく山中先生、山中先生て言うてはったよ」
 
 しかし、当時の事件に触れると、突然、険しい目つきに変わり、返答を渋った。悪口は言いたくない、というような態度に見えた。

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