◆「3人称の死」から「2人称の死」へ
『週刊文春』(1996年9月12日号)の記事によれば、当時の看護婦長は、詰め所にいた看護師から筋弛緩剤のことを耳にしたという。
「『エー、何でそんなもの使うんやろ』という疑問で頭が真っ白になりました。『レラキシンなんか打ったらすぐに呼吸が止まるのに、人工呼吸の準備もしてへん』とか、『山中院長を止めないといけない』という思いがよぎりましたが、頭がスムーズに回転せず、ただ呆然としていました」
また、同婦長はレラキシンがカルテに書かれなかった経緯について、次のように述べる。
「山中院長はあの時、レラキシンを使ったことを自分でカルテにも書かず、『看護記録にも書くな』と指示しました」
私は、この報道の信憑性について尋ねた。すると、山中はマスコミは看護師の一方的な主張を面白がって報じただけ、と述べた上で、机に置かれたカルテを指差した。
「僕は言ったんだけれど、彼女たちが書いてないだけです。詰め所ではっきり言ったんだ。内緒にしてくれとか言うのはひとつもない」
看護師たちの発言の真偽は分からない。筋弛緩剤は、用途次第で、患者を死に至らせることは、医師ならば皆知っているはずだ。投与しなければ、すぐに亡くなることはなかったのではないか。
「その辺が曖昧なんですよ。だから、限りなく安楽死に近い病死という形になるんです」