山中は安楽死合法国の例を模倣したわけではなく、自然と身に付けているようにみえた。こうした思考に辿り着く人々は、大切な誰かが、苦しんで死んでいく場面を見た経験を持つことが多い。山中もそうだった。

「戦後、食料事情の悪い東京で、医大に通っていましたけれど、そこで兄貴は病気で亡くなりました。2番目の兄貴は、明治大学へ行っていまして、やがて病気で亡くなりました。次は、親父の話になりますが、親父のすぐ上の姉が原爆で亡くなったんです」

 だからこそ、彼は、人間の生死や尊厳に対し、独自の考えが強いのかもしれない。また、あまり知られていないが、彼には、髄膜炎の後遺症で障害を負った次男がいる。この家族関係も、医師人生を歩む上で彼になにがしかの影響を与えたのだろうか。

 こうした「洋」と「和」が混在した二面性が、時に、私を不安にさせ、時に、安心させた。先生は、なぜ、今になって、私の取材を承諾したのですか? 私が、そう質問をしたのは、事件以降、「マスコミの怖さを知りました」と言い、沈黙を貫いたからだ。すると、「実はねぇ」と呟き、こう語った。

「今日、私が貴方に会おうと思ったのは、ちょうど私の親父が死んだ年齢だったからです。もしかしたら死ぬかもしれない。そろそろ、誰かに話をしておきたいと思ったからなんです」

【PROFILE】宮下洋一●1976年、長野県生まれ。米ウエスト・バージニア州立大学外国語学部を卒業。スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論とジャーナリズム修士号を取得。主な著書に『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』など。

※SAPIO2017年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン