山中は安楽死合法国の例を模倣したわけではなく、自然と身に付けているようにみえた。こうした思考に辿り着く人々は、大切な誰かが、苦しんで死んでいく場面を見た経験を持つことが多い。山中もそうだった。

「戦後、食料事情の悪い東京で、医大に通っていましたけれど、そこで兄貴は病気で亡くなりました。2番目の兄貴は、明治大学へ行っていまして、やがて病気で亡くなりました。次は、親父の話になりますが、親父のすぐ上の姉が原爆で亡くなったんです」

 だからこそ、彼は、人間の生死や尊厳に対し、独自の考えが強いのかもしれない。また、あまり知られていないが、彼には、髄膜炎の後遺症で障害を負った次男がいる。この家族関係も、医師人生を歩む上で彼になにがしかの影響を与えたのだろうか。

 こうした「洋」と「和」が混在した二面性が、時に、私を不安にさせ、時に、安心させた。先生は、なぜ、今になって、私の取材を承諾したのですか? 私が、そう質問をしたのは、事件以降、「マスコミの怖さを知りました」と言い、沈黙を貫いたからだ。すると、「実はねぇ」と呟き、こう語った。

「今日、私が貴方に会おうと思ったのは、ちょうど私の親父が死んだ年齢だったからです。もしかしたら死ぬかもしれない。そろそろ、誰かに話をしておきたいと思ったからなんです」

【PROFILE】宮下洋一●1976年、長野県生まれ。米ウエスト・バージニア州立大学外国語学部を卒業。スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論とジャーナリズム修士号を取得。主な著書に『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』など。

※SAPIO2017年6月号

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