ライフ

【著者に訊け】坂口恭平氏 詩的文体描く青春小説『しみ』

坂口恭平氏が青春小説『しみ』を語る

【著者に訊け】坂口恭平氏/『しみ』/毎日新聞出版/1400円+税

 2004年の『0円ハウス』や2012年『独立国家のつくりかた』は衝撃的だった。その斬新で、ある意味真っ当な人生哲学もさることながら、この人の言葉はなぜこうも力強く人を射抜いてしまうのかと、純粋に驚いたのだ。その人・坂口恭平氏が、近年は精力的に小説を発表。例えば本書、『しみ』である。

 舞台は主に八王子。相模湖でヒッチハイク中だった当時21歳の〈ぼく〉を拾い、ねずみ色のポルシェに乗せてくれた謎の男〈シミ〉がどうやら死んだらしい喪失後の場面から物語は始まる。

 長崎のボンボンで先祖はシーボルトの弟子ともいうシミの周りには世間一般からは逸脱した愛すべき面々が集い、ぼくは彼らとの日々を回想する一方、〈シミはいまも八王子の浴室でシャワーを浴びながら笑っているんじゃないか〉とも思う。それは夢のようでいて〈ぼくの中では事実〉であり、著者自身の青春でもあった。

 建てない建築家、写真家、画家、音楽家、落語家等々、縦横無尽に活動する坂口氏。家や土地や衣食に至るまで、金がなければ幸せになれないと思いこむ人々の呪縛を解き、本当にそうなのかと考えることで、彼は自由になろうとする表現者なのだ。

「最近は考えることから、みんなの知覚を喚起することへ興味が移りつつあって、小説も特に書く気はなかったんですね。僕は4年前に『幻年時代』という本を出したけど、子供の頃の遊びの話を4歳の目で書いたら、それが私小説として読まれた。僕は日本の小説をほとんど読まないし、今は自分の知覚を抽象画に近い形で表すには小説の方がいいのかな、くらいの感じです。

 この『しみ』も僕が建築科の学生で、0円ハウスの路上生活者と会う前の話で、なぜか本当のことを書けば書くほど物語っぽくなった。別にシミを悼むとかじゃないんです。あの時、自分が感じた空間や匂いを、僕は個々の存在や感情を超えた地下水脈の話にしたかった。たぶん今は忘れてるだけで、ある種の青春状態はみんな経験しているはずなんで」

関連記事

トピックス

エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
昨秋からはオーストラリアを拠点に練習を重ねてきた池江璃花子(時事通信フォト)
【パリ五輪でのメダル獲得に向けて】池江璃花子、オーストラリア生活を支える相方は元“長友佑都の専属シェフ”
週刊ポスト
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
乱戦の東京15区補選を制した酒井菜摘候補(撮影:小川裕夫)
東京15区で注目を浴びた選挙「妨害」 果たして、公職選挙法改正で取り締まるべきなのか
NEWSポストセブン
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
成田きんさんの息子・幸男さん
【きんさん・ぎんさん】成田きんさんの息子・幸男さんは93歳 長寿の秘訣は「洒落っ気、色っ気、食いっ気です」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
NEWSポストセブン