本人の弁明を聞くことなく、いきなり“解雇”したことに、長年解せない思いを抱いてきたが、この著書のオーラルヒストリーによって、そのメカニズムがようやく理解できた。要するに、裁判官の独立は建前に過ぎず、「政府・与党の圧力行使」には逆らわないという方針のもと、裁判所は運営されていたわけだ。裁判所もまた、政治に首根っこを押さえられているのである。
そして騒動が収まったあと、著者が抱いた、「ただでは済まないだろうなという不安」は的中する。「見せしめのために所長には昇格させないとか、長年支部勤務などの不利益を与える」人事が繰り返され、定年退官を迎えている。裁判所がいかなる論理のもと、どのような人事政策で裁判官を統制してきたか。その詳細を明らかにした本書の意義は大きい。
※週刊ポスト2017年6月23日号