誰も知らないことを発見するために熱い情熱をたぎらせる研究者はたくさんいる。しかし、必ずしもそのテーマが好きで好きでたまらないわけでもない。
「僕はナマコは食べません。ウニも滅多に食べない。生物には特有の臭いがあって、その臭いを嗅ぐと研究室にいる気分になるからです。僕、実はナマコが嫌いなんですよ。でも、尊敬している。尊敬は好き嫌いとは関係ない。侵すことができない生物だと思っています」
そう話すのは、40年以上にわたってナマコなどの無脊椎動物を研究してきた東京工業大学名誉教授の本川達雄氏(69)だ。ナマコの研究に没頭し、琉球大学助教授時代から、海に潜ってナマコを採取することもしょっちゅうだった。ただ、研究対象を選んだ理由は少し変わっている。
「僕はへそが曲がっていますからね。ナマコなんて誰も好きじゃないから、誰も研究しないでしょう。人がやらないことをやると、僕は非常にテンションが上がる。子供のころはみんなが手を挙げているときは手を挙げないタイプでした」
本川氏の著書『ウニはすごい バッタもすごい デザインの生物学』は、ウニやバッタ、ナマコなどの無脊椎動物の体が、どういった進化の過程を歩んだかを解説した一冊。著者が描いたイラストも収録され、前著『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』に続いてベストセラーになっている。