ところが高齢になると、反射機能や筋力の衰えなどが原因で、誤嚥を引き起こしやすくなる。
2015年に肺炎で死亡した12万人のうち、実に95%を65歳以上が占め、そのうちの約7割が誤嚥性肺炎だと診断された。同じくガイドライン作成委員だった和光駅前クリニックの寺本信嗣医師が語る。
「若い健康な方なら抗菌薬で完治できますが、高齢になると誤嚥によって何度も肺炎を引き起こしてしまう。完治までの展望が見えないまま治療を繰り返せば、患者さんを苦しめるばかりになる可能性もあります。寝たきり状態の方では、誤嚥性肺炎の治療が実質的な延命治療になっている面もあります」
今回のガイドラインは、誤嚥性肺炎の治療のあり方に一歩踏み込んだといえる。
「治療によって延びる命がわずかだと分かった時、その人のQOLが良い方向に進まないのであれば、“治療をしないという選択肢もある”という提言です。
苦しみを和らげる治療を優先し、積極的な治療をしないことで死期を早める可能性はありますが、死期を延ばすことで苦しみを長く続かせることはどうなのか。今回の提言はかなり治療する側の覚悟があった」(前出・朝野氏)