「一度天狗になった役者の根性って、簡単に治るもんじゃないんだね。こうなったのも全て『おふくろに甘やかされたから』と家を出て、ホテルで一人暮らしを始めちゃった。そのせいで更にだらしなくなり、女に夢中になるわ台詞は覚えないわ、役者としても全く進歩なし。

 結局デヴィ・スカルノさんとスキャンダルが勃発し、毎週のように週刊誌で叩かれて、とうとう全く仕事がなくなった。

 奈落の坂を転げ落ちてる時、朝日放送の演出家で友人の松本明に『山手線の中吊り広告は軒並み津川の名前だらけや。喫茶店ではみんながお前の話をしとる。それだけ話題になるまでにいくら広告料かけたことになるか考えてみい』と言われた。

 でも、嫌いな役者のトップになっちゃった広告だからね。『なんのプラスにもならんわ』と答えたら、『悪役やったらええのんや。嫌われ者ナンバーワンなら悪役。ピッタリや。嫌いな役者が最後に殺されたら、みんな喜ぶで』って。それで『仕掛人』で仇役に起用してくれた。親父も家族を食わすために仇役やってきたことを思い出してね。自分のプライドを納得させた。

 悪役をやってよかったのは、役の悪性を面白く出すためには、最初に善良性を見せておいて後で意表をつく。そういう人間の裏表って、悪役に限らず役者は描かなきゃいけないと気付けた。

 悪役をやることで、性格の二重性を考えるのが面白くなり、演じることに身が入るようになった。観客が嫌がるだろうアイデアって、楽しいからいっぱい浮かんでくるんだな」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2017年7月7日号

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