かつての巨人には強烈な誇りがあったと広岡氏は振り返る。
「チーム内の厳しい競争に勝ち抜いて初めて、レギュラーに手が届いた。巨人と他のチームではまったく次元が違った。常勝球団には勝った試合で流す涙はない。むしろ涙は陰に隠れて流す悔し涙。少なくとも人様に見せるものではなかった」
広岡氏が現役当時、ケガを隠してプレーを続け、遠征先でドクターストップがかかったことがあった。すると水原茂監督は「使えん者は即刻(東京へ)帰せ!」と怒鳴ったのだという。
「“使うだけ使いやがって、コノヤロー!”と思いましたよ。そのくらいレギュラーの座にしがみつこうと歯を食いしばってやった。涙は、そういう時にこそ流すものでした」(広岡氏)
V9の黄金期を築いた川上哲治監督の就任1年目に17勝を挙げ、南海との日本シリーズで胴上げ投手になったV9時代のエースで“鬼投手コーチ”としてチームを支えたこともある中村稔氏も、涙とは無縁だったという。
「プロなら結果を出して当たり前。なんで泣く必要があるのか、理解できないよ。日本一になって捕手の森(祇晶)と抱き合った時も、もちろん嬉しかったが、泣いたりはしなかった」