──こうした社会への違和感に共感した読者も多そう?
「彼女は、人生相談に対して『私には回答者は務まりません』と言っていますが、佐藤さんのような感想を、本当はみんな期待しているんです。あるパート主婦が、プロでもない自分の絵画作品を並べた展示会に友達を呼んだが、誰も来てくれなかった──という相談例が載っていましたが、ぼくだって佐藤さんが文中に綴っていたように、『当たり前だよ』と思います。
ぼくが『虫の標本を並べたから来てくれ』と言っても虫が好きな人しか来ないとわかっています。そんなことで嘆くなよな、と思いますね。あなたも、『虫、見せるよ』なんて言われても来ないでしょ?」
──ええ、まぁ…。
「『ゴキブリを並べたから見にきてくれ』と言っても、誰が来るか! 結局、人間の根本を動かすのは感情なんですよ。佐藤さんは感覚から入っているからいい。ところが、今の社会は何かというとルールを作って理屈で押さえようとしています。間接喫煙がいい例ですよ」
◆みんなが本音で言えばそれが普通になるはず
──養老さんは愛煙家として知られていますね。
「でも今は、他人が吸っているたばこの煙の方が有害だという理屈で、非喫煙者が煙を吸わないように喫煙所を作って喫煙者を閉じ込めているわけですよ。すると、喫煙所の中はモウモウです。間接喫煙の害があるなら、彼らは全員肺がんで死んでいますよ。国民の健康を法律に基づいて増進するなんて余計なお世話だと思いません? 国民が病気になる権利はないのか! と、結局、佐藤さんの本は終始こんな言い方でしょ(笑い)」
──とはいえ、本音を言おうものなら、世間から批判されそうで怖い…。
「それが間違ってるんですよ! 『佐藤さんだから言える』と言って、他人に言うのを任せてはいけません。みながそう思っているから、世の中がこうなってしまう。
だから、こういう本が売れるのはある意味よくないことで、ぼくは喜んでいませんよ。『自分は言わないけど、アイツが言ってくれる』──これは自分が本当はすべきこと、自分の責任を佐藤さんに背負わせているわけです。ぼくに言わせれば、人に言わせやがって、ですよ。時には口に出すのもいい? さっさと言えよ、何で今まで我慢してんだよ、バカ!と思いますけどね。と、彼女の本を読むと、こんなふうに好きなことを言いたくなるんです(笑い)」