荒汐親方が定年退職となるまでの三年の時間は、愛弟子達の活躍次第で長くも短くも感じられるだろう。少数精鋭の荒汐部屋では「付け人が足りなくて大変だ!」とあわてふためく事態になる。困りつつ、小さな顔をうれしさにクシャクシャにする荒汐親方を見たい。写真集も発行され角界を超えて有名になっている猫・モル君の手も、この場合は役に立たない。
日本橋浜町の荒汐部屋から十両になったイケメン三兄弟が歩いて国技館に向かう時、すれちがうすべての女性が振り返るだろう。しかしその後にあらわれる前頭の福轟力や荒篤山に「美形だけが魅力じゃないわね」とうなずく。それが私の望む隅田川越えである。
荒汐部屋の力士は、気持ちが続かなくなった、という理由で相撲をあきらめることはないだろう。身体を使う職業として二十七歳から二十九歳の、男盛りの二年間を奪われた蒼国来の裁判は過酷なものであったはず。それを近くで見ていたなら、心の限度のレベルは他とはちがっている。
※週刊ポスト2017年7月14日号