たとえば2008年に行なわれた58歳男性の手術では、わずか1例の執刀経験しかない医師が担当し、縫合不全で翌日には再手術になった。それだけでも問題なのに、私の上司で手術管理部長の立場にあった麻酔科医は、その再手術の麻酔を研修中の歯科医師に担当させた。
再手術の現場でも手術管理部長は、麻酔薬の投与が終わると監督役を放棄して手術室を離れてしまっていました。患者は心停止して植物状態に陥り、6か月後に亡くなった。
これほどの事故なのにセンターでは事故調査委員会も開かれない。歯科医師単独での麻酔研修は、その後も日常的に行なわれていました。
非常勤だった当時は憤りを胸にしまい込んでいましたが、2010年春に常勤医になって間もなく、同種の事故が再び起きました。患者の死には至らなかったものの、このままではまた死亡事故が起きるに違いない状態で、黙っていられませんでした。
強い危機感があって上申したのに、結果は上司からの“報復”でした。結局、がんの中でも胃や大腸など消化器系は手術件数も多く、医師の発言力も強い。当時のセンター長も何もいおうとしなかった。
また、そうした執刀医の立場からすると、再手術の多さを咎めない麻酔科医の手術管理部長は、重宝する存在だったのだと思います。
【結局、2010年9月に志村氏は退職に追い込まれ、外部への“告発”を決意する。ところが県病院局とやり取りをしても、調査が始まる気配は全くなかった。翌2011年2月には厚生労働省の公益通報窓口に実名で告発メールを送付。それでもなお、事態は動かなかったという】
窓口から返ってきたのは〈公益通報にあてはまらない〉という返答でした。