その後、渋沢は静岡に株式会社設立のための「商法会所」を設立。大蔵省への出向を経て、第一国立銀行(現在のみずほ銀行)頭取に就任したことをきっかけに、今日の東京海上日動火災保険、王子製紙、東急電鉄、サッポロビールなど500社近くの創業に関わり、二松學舎や東京経済大など600もの教育機関・社会公共事業を支援した。
農民出身で一橋家に奉公した「負け組」でありながら、近代日本の国家建設に貢献した渋沢は生涯「経世済民」を重視する信念を守り通した。富国強兵が進むなか、道徳仁義を重んじた明治人だった。
【PROFILE】八柏龍紀●秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部・文学部卒業。高校教師、大手予備校講師などを経て、現在、京都商工会議所主催「京都検定講座」講師。日本近現代史、日本文化精神史、社会哲学など幅広いテーマで執筆、論評、講演を行う。『戦後史を歩く』(情況出版刊)、『日本の歴史ニュースが面白いほどわかる本』(中経出版刊)など著書多数。近著に『日本人が知らない「天皇と生前退位」』(双葉社刊)がある。
※SAPIO2017年9月号