ライフ

野口英世 米国留学中の口癖は「俺は会津のサムライ」だった

逆境を跳ね返しノーベル賞候補に AP/AFLO

 薩長藩閥が権勢を拡大した明治の日本。歴史家・八柏龍紀氏は「賊軍として長く不遇をかこちながらも、官軍権力への反骨精神をバネに近代日本の礎を築いてきた人々がいたことを忘れてはならない」と指摘する。ここでは野口英世を紹介する。

 * * *
 子供向けの偉人伝でおなじみの野口英世は、福島県耶麻郡三ツ和村(現耶麻郡猪苗代町)で生まれた。

 この地は戊辰戦争で会津軍と新政府軍が戦った母成峠に近く、新政府軍はここから若松城下まで一気に突入した。野口は終生、自身の出自を意識しており、米国留学中の口癖は「俺は会津のサムライ」だったという。

 そんな野口は1歳半の時、囲炉裏に落ちて左手に大やけどを負ったが、そのハンデを乗り越えて医学の道に邁進。細菌学者として大成したこれが世間に広まる偉人伝の内容だが、実像は少し異なる。

 野口は研究熱心で知られる一方、知人に金を借りては放蕩を繰り返した。清国でペストが流行した際、政府から支給された支度金を借金取りに回収され、その後知人に泣きついて用立てた資金を芸者遊びで使い果たすような人物だった。

 反面、明治という時代が次第に固定的になり、貧富の差や都市と田舎の格差が広がるなか、彼は僻地の賊軍出身で身体にハンデを負うという二重の逆境を跳ね返し、ひたすらに立身出世をはかった。そしてついにはノーベル賞候補の細菌学者にまでのぼりつめた。

 彼の言葉に「名誉のためなら危ない橋でも渡る」がある。野口英世という“敗れざる者”の徹底したハングリーさと生き急ぐような放蕩からは、明治という時代の持つ過酷さが逆光のように差してくる。

【PROFILE】八柏龍紀●秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部・文学部卒業。高校教師、大手予備校講師などを経て、現在、京都商工会議所主催「京都検定講座」講師。日本近現代史、日本文化精神史、社会哲学など幅広いテーマで執筆、論評、講演を行う。『戦後史を歩く』(情況出版刊)、『日本の歴史ニュースが面白いほどわかる本』(中経出版刊)など著書多数。近著に『日本人が知らない「天皇と生前退位」』(双葉社刊)がある。

※SAPIO2017年9月号

関連記事

トピックス

妻とは2015年に結婚した国分太一
「“俺はイジる側” “キツいイジリは愛情の裏返し”という意識を感じた」テレビ局関係者が証言する国分太一の「感覚」
NEWSポストセブン
二刀流復活・大谷翔平の「理想のフォーム」は?(時事通信フォト)
二刀流復活・大谷翔平の「理想のフォーム」は?「エンゼルス時代のようなセットポジションからのショートアームが技術的にはベター」とメジャー中継解説者・前田幸長氏
NEWSポストセブン
24時間テレビの募金を不正に着服した日本海テレビ社員の公判が行われた
「募金額をコントロールしたかった」24時間テレビ・チャリティー募金着服男の“身勝手すぎる言い分”「上司に怒られるのも嫌で…」【第2回公判】
NEWSポストセブン
元セクシー女優・早坂ひとみ
元セクシー女優・早坂ひとみがデビュー25周年で再始動「荒れないSNSがあったから、ファンの皆さんにまた会いたいって思えました」
NEWSポストセブン
TOKIOの国分太一
【スタッフ証言】「DASH村で『やっとだよ』と…」収録現場で目撃した国分太一の意外な側面と、城島・松岡との微妙な関係「“みてみぬふり”をしていたのでは…」《TOKIOが即解散に至った「4年間の積み重ね」》
NEWSポストセブン
衝撃を与えた日本テレビ系列局元幹部の寄付金着服(時事通信フォト)
《24時間テレビ寄付金着服男の公判》「小遣いは月に6〜10万円」夫を庇った“妻の言い分”「発覚後、夫は一睡もできないパニックに…」
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO
《国民に愛された『TOKIO』解散》現場騒然の「山口達也ブチギレ事件」、長瀬智也「ヤラセだらけの世界」意味深投稿が示唆する“メンバーの本当の関係”
NEWSポストセブン
漫画家の小林よしのり氏
小林よしのり氏、皇位継承問題に提言「皇室存続のためにはただちに皇室典範を改正し、愛子皇太子殿下の誕生を実現しなければならない」
週刊ポスト
警視庁を出る鈴木善貴容疑者=23日午前9時54分(右・Instagramより)
「はいオワター まじオワター」「給料全滅」 フジテレビ鈴木容疑者オンカジ賭博で逮捕、SNSで1000万円超の“借金地獄”を吐露《阿鼻叫喚の“裏アカ”投稿内容》
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO(HPより)
「TOKIOを舐めるんじゃない!」電撃解散きっかけの国分太一が「どうしても許せなかった」プロとしての“プライド” ミスしたスタッフにもフォロー
NEWSポストセブン
大手芸能事務所の「研音」に移籍した宮野真守
《異例の”VIP待遇”》「マネージャー3名体制」「専用の送迎車」期待を背負い好スタート、新天地の宮野真守は“イケボ売り”から“ビジュアル推し”にシフトか
NEWSポストセブン
「最近、嬉しかったのが女性のファンの方が増えたことです」
渡邊渚さんが明かす初写真集『水平線』海外ロケの舞台裏「タイトルはこれからの未来への希望を込めてつけました」
NEWSポストセブン