もうひとつ、このドラマの魅力になっているのがセリフ。

「恋と秘密って似てるね。隠したくても隠しきれないところが」
「誰かと一緒に生きてくってことは、リスクがあるんだ」
「自分に都合のいいように真実をゆがめるのが人間」

 心の中にぼおっと浮かんでいる曖昧なことについて、警句や格言のごとく短くずばりと言い切るセリフが散りばめられています。

 加えて、キーになるのがイタリアオペラの響き。父親を殺した時に流れていた曲「トゥーランドット」が、物語を進めていく鍵の一つとして使われています。

 印象的なオペラのメロディが耳に入るとたちまち黎は殺害現場を思い出してしまい、脂汗が流れる。つい、秘密を漏らしてしまいそうに動揺して……謎を生む謎。鋭い言葉。効果的に使われる音楽。わかりやすい説明は、むしろいらない。配置されたアイテムが、ドラマ世界をより深い謎へとひっぱっていく。

 もう一つ、指摘したいのが福士蒼汰さんの押し殺した表情。ドラマの中でこれが非常に活きています。これまで仏頂面とか表情が足りない、などと指摘されたこともありましたがそうではない。むしろ、内省的で繊細。秘密を抱えた人の葛藤と暗さが伝わってくる。この作品で福士さんは「複雑な人物を演じる力の可能性」を示したように思います。

 一方、川口春奈さんの躍動感、イキイキした雰囲気も、福士さんとの意図された対照的な配置となって陰影を作り出しています。演出の腕に唸らされます。

 ドラマのコンセプトは「恋人のことをどれくらい知っていますか」。企画・原案は秋元康氏だけに、一筋縄ではいかない老獪さ。悔しいけれど、視聴者の意識はどんどん追い込まれていく。引きずられていく。謎を深める筋立て、切れたセリフ、巧みな音、陰影を見せる演技、あざとい演出……後半ますます目が離せません。

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