国際情報

釜山の若者との対話【第3回】慰安婦、軍艦島の質問に焦る

「彼ら自身、こんなにしっかり意見を述べられるなんて、自分に驚いているんじゃないですかね」

 そんな教育局担当者の意見に、インディゴのスタッフで季刊誌「INDIGO」の編集長、パク・ヨンジュンは、もしそうだとすれば一番の成果じゃないですかと応じていた。

「もともとこのキャンプは、経済格差などでふだんあまり認められていない子たちが集まっているものです。でも、うまく議論を促せば、しっかりと地に足の着いた議論ができるし、ひいては進学などの希望にもつながるかもしれない。その可能性に気づいただけで彼らは自信になったと思いますし、大きな成果になったと思いますね」

 もとよりこのユースキャンプは、インディゴのスタッフが変わりゆく釜山の姿とそれに伴う経済格差の拡大という変化を実家する中で企図されたものだった。豊かな経済と光り輝く繁栄で見過ごされる若者たちにどう目をかけるか。

 その意味で、当初の目的は十分達せられていたように感じた。

「希望」をもつためにどうすればよいか。講演のたびに最後はその話題に触れたが、そこで語ったのは新しい世界と正確な事実の確認に触れていくことだった。そして、そのためには、手元のスマートフォンなどインターネットを駆使するのがいいと話した。

「それが一番お金がかからず、新しい世界を開いていく方法なのは間違いないと思います。自分が興味をもったり、話してみたいと思った人にはどんどんコンタクトしてみるといいし、そうして新しい人と出会うことで必ず人は成長します。実際、それを実践しているのがインディゴの人たちでもあるからです。ぜひ参考にしてみてください」

 そんな言葉で彼らも拍手で応えていた。そのネットの感覚には少なくない実感があったのだろう──そんな気がした。

 実際、そんな想像はけっして遠くはなかったようだった。

 二度目の講演を終えて、日本に帰りつくと、筆者のfacebookには「友達申請」が山ほど寄せられていた。

(終わり)

《森健氏プロフィール》
1968年1月、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。在学中からライター活動をはじめ、科学雑誌、 経済誌、総合誌で専属記者を経て、フリーランスに。2012年『「つなみ」の子どもたち』で第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2015年『小倉昌男 祈りと経営』で第22回小学館ノンフィクション大賞の大賞を受賞。2017年、同書で第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞、ビジネス書大賞2017で審査員特別賞を受賞。

関連記事

トピックス

「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ犯から殺人犯に》「生きてたら、こっちの主張もせんと」八田與一容疑者の祖父が明かしていた”事件当日の様子”「コロナ後遺症でうまく動けず…」
NEWSポストセブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
「本人にとって大事な時期だから…」中居正広氏の実兄が明かした“愛する弟との現在のやりとり”《フジテレビ問題で反撃》
NEWSポストセブン
デフサッカー男子日本代表が異例の活動中止に…(時事通信フォト)
【デフリンピック半年前の騒動】デフサッカー男子日本代表が異例の活動中止「監督は聴覚障害に理解があるはずでしたが……」 ろう者サッカー協会が調査へ
NEWSポストセブン
長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督からのメッセージ(時事通信フォト)
《長嶋茂雄さんが89歳で逝去》20年に及んだ壮絶リハビリ生活、亡き妻との出会いの場で聖火ランナーを務め「最高の人生」に
NEWSポストセブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
「兄として、あれが本当にあったことだとは思えない」中居正広氏の“捨て身の反撃”に実兄が抱く「想い」と、“雲隠れ状態”の中居氏を繋ぐ「家族の絆」
NEWSポストセブン
今年3月、日本支社を設立していたカニエ・ウェスト(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストが日本支社を設立していた》妻の“ほぼ丸出し”スペイン観光に地元住人が恐怖…来日時に“ギリギリ”を攻める可能性
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《子どもの性別は明かさず》小室眞子さんの第一子出産に宮内庁は“類例を見ない発表”、守谷絢子さんとの差は 辛酸なめ子氏「合意を得るためのやり取りに時間がかかったのでは」
NEWSポストセブン
現在、闘病中の西川史子(写真は2009年)
《「ありがとう」を最後に途絶えたLINE》脳出血でリハビリ中の西川史子、クリニックの同僚が明かした当時の様子「以前のような感じでは…」前を向く静かな暮らし
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
六代目山口組の新人事、SNSに流れた「序列情報」 いまだ消えない「名誉職」に就任した幹部 による「院政説」
NEWSポストセブン
元女子バレーボール日本代表の木村沙織(Instagramより)
《“水着姿”公開の自由奔放なSNSで話題》結婚9年目の夫とラブラブ生活の元バレーボール選手の木村沙織、新ビジネスも好調「愛息とのランチに同行した身長20センチ差妹」の家族愛
NEWSポストセブン
宮城野親方
何が元横綱・白鵬を「退職」に追い込んだのか 一門内の親しい親方からも距離置かれ、協会内で孤立 「八角理事長は“辞めたい者は辞めればいい”で退職届受理の方向へ」
NEWSポストセブン