「彼ら自身、こんなにしっかり意見を述べられるなんて、自分に驚いているんじゃないですかね」
そんな教育局担当者の意見に、インディゴのスタッフで季刊誌「INDIGO」の編集長、パク・ヨンジュンは、もしそうだとすれば一番の成果じゃないですかと応じていた。
「もともとこのキャンプは、経済格差などでふだんあまり認められていない子たちが集まっているものです。でも、うまく議論を促せば、しっかりと地に足の着いた議論ができるし、ひいては進学などの希望にもつながるかもしれない。その可能性に気づいただけで彼らは自信になったと思いますし、大きな成果になったと思いますね」
もとよりこのユースキャンプは、インディゴのスタッフが変わりゆく釜山の姿とそれに伴う経済格差の拡大という変化を実家する中で企図されたものだった。豊かな経済と光り輝く繁栄で見過ごされる若者たちにどう目をかけるか。
その意味で、当初の目的は十分達せられていたように感じた。
「希望」をもつためにどうすればよいか。講演のたびに最後はその話題に触れたが、そこで語ったのは新しい世界と正確な事実の確認に触れていくことだった。そして、そのためには、手元のスマートフォンなどインターネットを駆使するのがいいと話した。
「それが一番お金がかからず、新しい世界を開いていく方法なのは間違いないと思います。自分が興味をもったり、話してみたいと思った人にはどんどんコンタクトしてみるといいし、そうして新しい人と出会うことで必ず人は成長します。実際、それを実践しているのがインディゴの人たちでもあるからです。ぜひ参考にしてみてください」
そんな言葉で彼らも拍手で応えていた。そのネットの感覚には少なくない実感があったのだろう──そんな気がした。
実際、そんな想像はけっして遠くはなかったようだった。
二度目の講演を終えて、日本に帰りつくと、筆者のfacebookには「友達申請」が山ほど寄せられていた。
(終わり)
《森健氏プロフィール》
1968年1月、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。在学中からライター活動をはじめ、科学雑誌、 経済誌、総合誌で専属記者を経て、フリーランスに。2012年『「つなみ」の子どもたち』で第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2015年『小倉昌男 祈りと経営』で第22回小学館ノンフィクション大賞の大賞を受賞。2017年、同書で第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞、ビジネス書大賞2017で審査員特別賞を受賞。