このように見てみると、香港の経済は中国なしには機能しない状況であり、これについて、香港生まれの知人は「すでに香港経済は中国に乗っ取られており、この状態は香港では『染紅』と呼ばれている」とため息をついていた。
「染紅」を象徴しているのが、香港政府が最近発表した香港における収入格差に関する統計数字だ。最貧困層の10%の平均月収は2560香港ドル(約4万円)だが、最富裕層の10%のそれは11万2000香港ドルと、収入格差は約44倍にも及んでいる。前出の香港の外交筋は「最富裕層の大半は中国系企業幹部で、最貧困層は最近年々増えており、独居老人のほか失業している若者層など香港人が占めている。これは、香港が中国に呑み込まれていると形容してもよいだろう」とみている。
このようななかで、急速に進んでいるのが香港と中国大陸との一体化だ。それを端的に表しているのが、香港と広東省珠海、マカオを結ぶ全長55kmの「港珠澳大橋」。今年末に完成予定で、世界最長の橋になる。これまで陸路では香港─広東省間は約3時間かかっていたが、同橋が完成すれば、わずか30分と大幅に短縮され、これまで以上に大陸からの物資や人が香港に流入することは必至だ。
同筋は次のように指摘する。「この大橋の建設や大湾区の創設は本土支配のシンボルであり、香港の独自性はますますなくなり、本土の地方都市と区別がつかなくなるだろう。習近平が最高指導者に就任してから、香港への中国共産党政権の締め付けが厳しくなっており、新任の林鄭行政長官も『中国のイエスマン』であり、『中国の傀儡政権化』しているのは明らかだ。かつて『東洋の真珠』といわれた香港の輝きは褪せていくばかりだ」
※SAPIO2017年9月号