香港の外交筋は「習近平は今回の訪問で、中華人民共和国という『1つの国家』があってこその『2制度』であり、香港が中国に従属することを前提としたことで、香港の独自性を限定してしまった。すなわち、香港の自由は完全に奪われてしまったことを意味する。市民も民主派に肩入れすれば、中国ににらまれ、自身の生活に影響すると懸念している。このような中国の影響力は政治面ばかりでなく、香港の生命線である経済・金融分野まで及んでいる」と指摘する。
こう同筋が強調するように、返還後20年が経って、中国が香港経済を牛耳っているとの実態がある。例えば、香港証券取引所に上場している中国系企業は1997年の返還時にはわずか83社だけだったが、今年5月末現在では1018社に上り、上場企業全体の63%を占める。これに対して、香港企業は全体の30%に過ぎない。さらに、上場企業のうち、時価総額の上位10社のうち9社が中国系企業だ。
◆中国のイエスマン
香港における金融の中心街といえば中環(セントラル)地区だが、中国系の金融機関が相次いで進出しており、セントラルで今年、賃貸契約がなされたオフィス面積の52%以上が中国系企業だ。これは返還後、中国本土から150万人もの中国人移民が香港で暮らしていることと無関係ではない。この人数は香港の人口720万人の約5分の1に達している。その大半は中国系企業の幹部や高所得者層であり、経済的に中国の香港支配が深く進んでいる。
その一方、海外企業にとって、香港は中国に投資する経由地として機能してきたが、2015年には中国から香港への直接投資額は898億ドル(約10兆円)に達する一方で、香港から中国への投資額は864億ドルと初めて上回った。また、香港経済の主体は金融、貿易だが、観光業も大きな比率を占める。1997年の中国大陸からの観光客は236万人だったが、昨年1年間では、その18倍の4277万人にも達した。