Aさんの息子であるB子の夫は、数年前に事故死。未亡人となったB子はその後、義父であるAさんの介護に追われたが、そのうち同居する義祖母、Aさんの母親も寝たきりになり、二人の介護をせざるを得なくなった。カビだらけの布団に横たわっていた高齢女性がその人だ。さらにB子には現在30代の娘と、20代後半の息子がいたが、この二人の子供はそれぞれ中学時代に壮絶なイジメにあい、高校に進学することもなく、何年も引きこもっていた。
「義父Aさんと義祖母、嫁のB子、その子どもたちあわせて5人いる一家のうち、誰一人働いていません。B子は年金をもらうまであと数年ありますし、子供二人は完全な引きこもりで二階の部屋から出てこず、職員は見たことがありません。要は、B子もその二人の子供も、Aさんの障害者年金やAさんの母の年金で暮らしているのです。いろんな事情で働けないのは仕方がありませんが、AさんもAさんの母親も、まともに介護を受けていらっしゃらない。二人のうち、どちらかが自宅でお亡くなりになった場合、B子とその子どもたちは、事実を隠して、年金を不正に受給するのではないかと……。AさんやAさんの母親が気の毒すぎて……」
事実を知った庄司さんは、すぐに役所に通報。AさんやAさんの母親が無事保護されるかと思われたが……。
「役所が一度立入検査をしたようですが、結果は問題無し、と。全く信じられませんが、B子はAさんやAさんの母親に虐待をしたわけでもなく、ただ配慮が甘かっただけだと主張し、役所もそれを受け入れるしかなかったというんです。怒ったB子は、うちの施設は信用できない、名誉毀損だと怒り狂った挙句、Aさんを無理矢理に別施設に通わせるようになりました……」
縁が切れてもAさんが無事でいるか、思いを馳せない日はないという庄司さん。庄司さんのように、受けるべき介護を受けられずにいる高齢者を助けたいと願っても、家族による介護を基本になっている日本の仕組みでは限界がある。世界じゅうのどこも経験したことがない超高齢化時代を迎える前に、悲劇の拡大を食い止める方法はないものか。