◆戦争はタダではできない
トランプ大統領が愛用しているツイッターでの「言葉の攻撃」にかかる費用はタダ同然なのだが、現実的な問題として、米国は世界最大の債務国であり国家予算は国債に依存しているため、北朝鮮に武力行使するための費用、すなわち戦費をどのように確保するのかという問題がある。
米国防総省が今年5月23日に発表した2018会計年度の国防予算案は、本予算約5745億ドル(約64兆2千億円)にイラクやシリア、アフガニスタンなどでの戦費約646億ドル(約7兆1000億円)を加えた約6391億ドルとなっている。(日本の2017年度の一般会計予算は97兆4547億円、防衛費は5兆1251億円)
戦費の負担は景気にも影響する。2010年9月、オバマ米大統領が米軍のイラクでの戦闘任務の終結を宣言したが、7年5か月に及ぶ戦いにより、7000億ドル(約77兆円)にのぼる戦費が米国経済への重荷となり、リーマン・ショックの伏線となった。
戦争により軍需産業が潤うなどの経済効果はあるが、返す当てのない大量の国債の発行が長期的に経済に与える影響は少なくない。
北朝鮮への武力行使に必要となる戦費は、クリントン政権が北朝鮮攻撃を検討した際の推計が1000億ドル(現在のレートで約11兆円)であった。攻撃を検討した1994年当時とは違い、巡航ミサイルや誘導爆弾が大量に使用されることになるため、大規模な地上戦が行われることはないだろうが、高価な兵器を大量に使用することになるため高額な戦費になるのは間違いない。
北朝鮮軍が相手なら、米軍が現在保有している兵器の「在庫処分」で済むという見方もあるが、それは一時的なものであり、後々「在庫処分」した分の穴埋めをするために新たに兵器を購入しなければいけない。
◆日本に着弾した場合
今回のミサイルは日本列島を飛び越えたが、もし、日本へ着弾したらどうなるのだろうか。安倍晋三首相は8月29日、「北朝鮮のミサイル発射直後から動きを完全に把握していた。万全な対策を取ってきた」「これまでにない深刻かつ重大な脅威。(北朝鮮に)断固たる抗議を行った」と述べている。
弾道ミサイルが発射されるたびに繰り返される、何の実効性もない「断固たる抗議」はともかく、「万全な対策」とはどのような対策なのだろうか。
おそらく、人工衛星を使って防災無線から地方自治体に瞬時に伝達する「Jアラート」と、内閣官房から緊急情報が流れる「Em-Net(エムネット)」が正常に作動し、自治体での被害状況の確認が円滑に行われたことを指しているのだろう。
今回は何の被害もなかったが、もし弾頭が着弾した場合はどう対応するのだろうか。日本への着弾が予想される場合は、自衛隊法に基づく破壊措置を実施することになるが、その後の自衛隊の対応に問題が残る。つまり、「防衛出動」や「防衛出動待機命令」を発するかどうかである。
防衛出動には国会の承認が求められるため、よほどの事態に発展しないかぎり、野党が反対することは目に見えている。