──そのような発想から生まれたのが今回の「ザ・レンジ」であり、「ザ・トースター」であると。
寺尾:そうですね。たとえばバルミューダの「ザ・トースター」で焼くと、普通のトーストではなく、素晴らしいトーストができあがる。その価値はポップであり、だから、認めてもらえたのだと思います。カッコイイからではなく、美味しいものができるからヒットしたのです。
◆会社で大事なのは人、モノ、金よりも、「商品」
──現在の家電は、素晴らしい価値や喜びの提供が希薄になっていると感じますか?
寺尾:今の私たちは、家電はもちろん多くの物と共に暮らしています。つまりもう、持っているということ。暮らしていて特段の不便さも感じません。昔は日本中に持っていない人たちが満ち溢れていた。そんな時代と今では、当然売れるものは変わってくるはずです。
家電でいうと、重要なのは、「主たる機能」において、新しい価値を提供できるかどうかだと思います。洗濯機の何が画期的だったかといえば、手動で行っていた洗濯という行為を、機械が代替してくれたことですよね。つまり、新しいボタンが付いたとか、本体が小さくなったとか、そういう進化も大事かもしれないけれど、私は本質ではないと考えます。主たる機能に喜びや素晴らしさを付加できてこそ、お客様に喜んでいただけるのだと。それが上手くいった例が扇風機であり、トースターです。
──「ポップ」というベースの概念の上に、具体的に、新しいアイディアはどのように練っていかれているのでしょうか。
寺尾:アイディアというのは、ゼロから生み出すものではなく、私の考えでは、ただの組み合わせです。今までくっついていなかったものを、くっつけるだけ。「高い」+「トースター」だと、別に欲しくないなと思う。「カッコイイ」+「トースター」も、それほど食指が動かない。ところが「世界最高のバタートースト」とくっつけると、惹かれるな、となるのです。
組み合わせの前提として、何かを見た時に、他の何かを思い出す必要があります。発想って、結局は「思い出し」なんですね。たくさんのことを思い出せたら、くっつける幅も広がるわけで、そのための訓練として、私は1人連想ゲームよくします。何でもいいのです。たとえば、本から始めて、本→紙→パルプ→アフリカ→ダイヤモンド→石→石炭……と、連想していく。3分間やるとぐったり疲れます。が、お薦めです。