「JTBは既存のホテルや旅館といった伝統的な宿泊施設と共存共栄してきたイメージだけに、それら宿泊施設と利害関係が対立する民泊への参入には違和感を覚える業界関係者も多いと思います。
その一方で、いまJTBが置かれた立場を如実に表しているともいえます。JTBは実店舗も持つ旅行代理店として団体旅行や海外旅行に強いとされてきましたが、近年はFIT(個人手配の海外旅行)なども増える中、宿泊予約サイトを代表とするOTA(オンライン専門の旅行会社)の隆盛にさらされています。民泊といえばまさにオンライン販売が主流のため、多様性を持つ旅行会社へ脱皮したいという狙いもあるのでしょう」
民泊の登場によって、旧来型の宿泊ビジネスが脅かされる時代──。もっとも影響を受けるのはホテル業界だろう。
近ごろ訪日外国人の急増で都市部のホテル不足や料金上昇が問題になっているが、そこで脚光を浴びているカプセルホテルやホステル、レジャーホテルは民泊に市場を奪われかねない施設といえる。
「大都市部で民泊は安い宿泊施設としての位置づけだけに、低廉な料金体系のカプセルホテルや簡易宿所との競合が懸念されます。民泊の営業利益率は人件費がかからないことからカプセルホテルやホステルを超えるというデータもあります」(前出・瀧澤氏)
それだけではない。主要なシティホテルも客室稼働率が低下するなど“民泊インパクト”を受ける恐れがある。瀧澤氏が続ける。
「東京都心のホテル稼働率は近年上昇傾向が続いてきましたが、2016年は一転、鈍化・下落傾向となりました。あるリサーチでは、ホテル予約減の数字と民泊利用者数が相関関係にあると指摘しているほどで、やはり民泊のインパクトは相当だといえます。
ここにきて民泊事業者の競争激化により、特に都市部で一般のホテルに求められるような立地やアクセス、快適性などが重視されるようになってきました。ノウハウや資金力がある事業者がホテルライクな民泊を手掛ける規模によっては、シティホテルへの影響も少なくないでしょうね」
では、既存のホテルが民泊に顧客を奪われないためにはどうしたらいいのか。その答えは、やはり付加価値の追求以外にはなさそうだ。
「訪日外国人客は“泊まれればどこでもいい”と割り切って宿泊特化型のビジネスホテルを利用する人も多くいますが、その一方で“泊まるだけではつまらない”という声もあります。
そこでコト消費にフューチャーした宿泊特化型ホテルが出てきていますし、そもそも多様な機能を持つシティホテルは、ゲストへ旅の体験を提供できる装置でもあるので、差別化はできるはず。
ただ、最近は茶道など日本文化が体験できる民泊プランも登場しているので、既存宿泊施設のさらなる付加価値向上が、シェア堅持の大きなカギとなるでしょう」(瀧澤氏)
東京オリンピックが開催される2020年には2000億円の市場予測もある民泊マーケット。果たして旅行者の多様化するニーズに応えてどこが主導権を握るのか。日本の宿泊慣習を一変させる事態も考えられるだけに、目が離せない。