大学卒業後、東京法務局に入局した西村会長は、その後、地元の岡谷市に戻り、中小企業に転職。事務職として働いたが、そこで見たものは、オーナー一族が金満生活を送る一方、現場で汗を流して働くパート従業員が使い捨てられている現実だった。
「私も中小企業の経営者として、資金繰りが大変で、日々ストレスの塊です。しかし、パートを道具のように使い、経営者との格差があまりに大きくなっている現状は問題だと思います」(西村会長)
1978年、一念発起してリバー・ゼメックスの前身会社を起業。パートを雇わず、全員を正社員として雇用することでスタートした。正社員待遇には社会保険料など、給与以外の負担もあるが、「そこはもう、おれの意地。最初の頃は、妻が内職をしていました」と西村会長は笑う。
「オールマイティーなプロを作る」をモットーに、全員が全工程を作れるように指導したところ、シングルマザーの多い職場でプラスに働いた。
休む人がいても、誰かが必ずサポートに入ることができる。子供の病気や授業参観で早退することになっても、「私が代わりに入るから行っておいで」と送り出せる環境が生まれたのだ。
「みなそれぞれ事情を抱えているので、理解がある。“お互い様”の心です。うちには託児所や寮はないけど、それで仕事に穴が空くことはありません。もう1つ、全部の工程ができるようになると、みんな自信を持ち始めるんです。常に自分の居場所があるわけだから。それがプロ意識に繋がり、より一層上級技術を身につけようと欲が出てくる。好循環が生まれました」(西村会長)
こうした取り組みは国からも注目され、同社は2014年に厚生労働省から『はたらく母子家庭・父子家庭応援企業』に選定された。すると評判が評判を呼び、「ここで働きたい」と、シングルマザーの応募がさらに増加しているのだという。同社役員の鶴巻美恵子さん(63才)もシングルマザーだ。29年前に入社した時、息子はまだ3才。
「職場を抜けて保育園に子供を迎えに行き、また職場に戻るという日々。時には職場に子供を連れてきて、会社の人に見てもらいながら仕事をしたこともあります。でも、みんなが私の境遇を当たり前のこととして受け入れてくれました。学校の行事でどうしても2時間抜けなければいけない時も、“わかりました、じゃあ代わりにやっておきますね”って。本当に気持ちよく抜けさせてくれるんです」(鶴巻さん)
おかげで、鶴巻さんは引け目を感じることなく仕事を続けることができた。愛する息子は32才になり、今や系列会社で働いている。
「“いつか超えたい人がいる。それはお母さんだよ”なんて言うんです。嬉しかったですね…。この会社を選んでよかったと、心から思います」(鶴巻さん)
※女性セブン2017年9月28日号