「おこわにかける」の意味をマクラで仕込んでからの『居残り佐平次』は、あっけらかんとした佐平次のキャラが一之輔らしくていい。佐平次が花魁の確定申告を手伝ったり『芝浜』をやったり、「一之輔の落語」として成長し始めたのを随所に感じた。後半、二階で稼ぎ始めた佐平次の「ワケのわからないヤツ」な感じは立川談志や先代三遊亭圓楽に通じるが、ハジケた軽さは一之輔特有のものだ。
一之輔の落語は常に進化し続けている。この日もそれを実感した。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『僕らの落語』など著書多数。
※週刊ポスト2017年9月29日号