外部の委員会的な機関も機能せず、資料は充分に開示されない。こういった著者の怒りが向かう先を理解すれば、本書が「告発」しようとしているのは何であるかはあきらかだ。著者は「自分の置かれた立場の都合で、嘘を語ることは当り前だ」という、この国の公や企業や私たちがどこかで当然と思っている、組織の論理をこそ批判している。
web以降の時代は、「情報戦」がひどく日常化してしまい、公もメディアも個人も、都合のいい真実を互いに求め、ただ、相手をフェイクニュースと罵り合うことに慣れてしまった。自分の気に入らないニュースが全て陰謀や工作に見えてしまう。だからこそ、陰謀説に崩れぬように危ういバランスをとりつつ、慎重に「事実」を求めようとする著者の姿にだけは、少なくとも学ぶべきものがある。
※週刊ポスト2017年10月6日号