ライフ

橋爪大三郎氏「西郷隆盛は日本右翼の原型である」

出征兵士を見送る人々 共同通信社

 幕末維新の立役者のなかでも、なぜ結果的に“敗軍の将”となった西郷が後世の日本人に英雄視されるのか。社会学者・橋爪大三郎氏によれば、そこに、近代日本を読み解くヒントがあるという。橋爪氏が解説する。

 * * *
 西郷隆盛には、いつでもどこか、死の影がつきまとっている。西郷隆盛は、有能な軍指揮官だった。政略と戦略の原則をわきまえ、部隊を統率し、勝利に導いた。江戸の無血開城に成功したのはそのハイライトだ。

 まず要衝を押さえて、江戸を力攻めできる構えをとる。つぎに単身、敵中に乗り込んで、有利な和平を呑ませる。自らを捨て石にする豪胆な行動が、説得力をもった。交渉術に、西郷の本質がにじみ出ている。

  勝海舟は海軍である。海軍は、列強から艦船を輸入し、兵員を訓練して、いちから軍を編制する。開明的で合理的であるほかない。西郷隆盛は陸軍である。薩摩藩士に優秀な装備を与えて、国内を転戦する。伝統的人間関係のうえに、指揮統率が成り立っている。

  幕末の課題は、どのように集権的な政体をつくり出し、列強の軍事圧力をはねのけるか、だった。多くの志士たちが脱藩して、その道を模索したが、敗れ去った。代わりに主力となったのは、改革派が藩を乗っ取った、雄藩の連合だった。 その指導者らが、新政府の中枢のポストに就いた。

 西郷はそれに加わらず、戊辰戦争が終わると、多くの藩士とともに薩摩に戻った。そのあと数年、西郷は薩摩で、下級武士の待遇を改善する藩の改革にエネルギーを注いでいる。薩摩の下級武士は、他藩と違い、農業経営にも従事する独特な存在だという。ユンカーに似ている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン