「何が子供の幸せか」を考えて柔軟に対応する欧米の里親制度は、日本の遙か先を行っている。そもそも阪口氏自身、インターネット赤ちゃんポストを立ち上げるきっかけは、行政の限界を感じたことだった。
「私も長年夫婦で不妊治療をしてきましたが、子供を授かることができず、最後は養子を求めて児童相談所に行きました。でも、ここからが長い。多くは3年、5年と待たされます。そのうち年齢を重ねてどんどんマッチングの可能性が低くなっていく。晩婚化で不妊治療に臨む夫婦は増えましたが、出産を諦めて養子を求めようにも、その頃には年齢面でアウト。加えて無駄な里親研修制度に児童相談所の人手不足と、すべてが時代に噛み合っていない。この現状を打破したくて、インターネット赤ちゃんポストを設立したんです」(阪口氏)
毀誉褒貶にさらされながらも阪口氏の事業が盛況を極めるのは、時代の必然なのかもしれない。養父母に育てられた経験を持つ、医師で作家の鎌田實さんもこう語る。
「育ての親がいてくれたおかげで今のぼくがいます。慈恵病院では養子縁組した家族が年に1度集まる会が催されているのですが、血の繋がっていない親子なのに、なぜかみんな顔が似ているのだそうです。一緒に暮らし、抱きしめているうちに人は似てくるんです。
血の繋がりではない家族を、社会がもっとオープンに受け入れることができたなら、子供に恵まれない人たちの喜びにもなるのだと思います。インターネット赤ちゃんポストにも課題はありますが、救われた女性がいて、赤ちゃんの命が守られ、新しい人生を生きる人がいる以上、簡単に否定されるべきではない」
中絶件数が年間17万人を超える現在、阪口氏は次の目標を見据えている。
「来年は事業の全国展開を目指しています。もちろん目的はただ1つ。『命を救う』。それだけです」
※女性セブン2017年10月12日号