「ずっと緊張していたのを覚えています。病院のロビーで待っているときもドキドキ、というか、ワクワクというか、…」(Aさん)
実母の意向で、里親との面会は行わないことになっていた。
「だけど、当日になって実母さんの気が変わったらしく、やっぱりお会いすることになりました」(Aさん)
実母はわが子を手渡すとき、「お願いします」とだけ言い、Aさんは「ありがとうございました」と答え、赤ちゃんと共に帰路についた。
「帰りの新幹線の中で、私と夫は会話もなく、ただおとなしく眠るわが子を見つめていました」(Aさん)
彼女が提供してくれた写真には、かわいらしい赤ちゃんの寝顔が写っていた。
「行政を通して里親を希望しても、その地域内でしかマッチングはしてもらえません。都内であれば都内だけ。
でもインターネット赤ちゃんポストは全国でマッチングが可能です。さまざまな批判がありますが、少なくともこのサイトがなければ私はこの子に出会えていません」(Aさん)
◆血の繋がっていない里親と里子の顔がいつしか似てくる
Aさんの指摘どおり、インターネット赤ちゃんポストの利用者が増える背景には、日本の里親制度の遅れがある。
里親希望者の行政上の窓口は児童相談所だが、ほとんどの職員が虐待児童の調査・保護活動に忙殺され、里親支援に労力を割けていない。国は早急な制度改革が求められているが、道半ばなのが現実だ。養子縁組の問題に詳しい日本社会事業大学准教授の宮島清氏が解説する。
「里親委託が増えている大分県や福岡市などでは、児童相談所に里親委託を担当する専任の職員を置いています。里親登録から子供を預けた後の支援までをNPO法人などに委託して成果を上げている静岡市などの自治体もあります」
海外に目を向けると、欧米諸国では養子縁組は一般化しており、アメリカでは日本の200倍以上となる年間12万件の養子縁組が成立している。
行政だけでなくNPOの養子斡旋業者も多数あり、新規参入の敷居も低い。世界をまたにかける養子斡旋事業者も数多く存在し、ブラッド・ピット(53才)とアンジェリーナ・ジョリー(42才)夫妻も海外から養子を迎え入れている。